第2回 家賃滞納の賃借人が高齢者や健常者でない場合の立ち退き
みなさん こんにちは
今回は、私が立退きの実務を行っていた際に実際にあった事例の中で、
よくあることではなく、めったになかったケースなんですが、世界でも(進展が)トップクラスにある高齢化社会の日本では、今後は、多くなっていくのではないか?と危惧される事案をテーマにしています。
私も遭遇したことのある事例ですが、法律と執行の実務上の限界点を実体験することになった次第です。
Q
家賃滞納の借家人がいます。
裁判では「賃借人は建物を
明け渡せ」という判決がでたのですが、
借家人は独居の身寄りのない寝たきり老人なんです。
立ち退きさせることは可能でしょうか?
A
高齢化社会に直面している現在の日本では、単身で居住している
高齢者は多く存在しており、今後も建物明け渡しにおいてこのよう
なケースが出てくることは少なくないし、避けることのできない課題
になると思われます。
法律の規定では、「寝たきり老人を退去させることはできない」とい
うような禁止規定はありません。
しかし、現実問題として、強制執行を執行することについて困難なと
ころがあることも事実です。
司法書士も過去、同じようなケースに遭遇したこともあります。
身寄りのない寝たきりの高齢者の場合、身内に引き取ってもらうこ
ともできず、医療機関に入院させることも、入院費用の問題等がで
てきます。
また、自ら動くことができない人を退去させた場合、道路上に放置
して「建物明け渡し終了」とすることもできません。
現場での建物明け渡しの強制執行も執行官の裁量で進められます
が、執行官も「執行不能」と判断することも想定されます。
司法書士の経験では「大変困難な建物明け渡し」でした。
考えられる対応としては、居住地域を管轄する福祉機関と相談して
ことを進めることもひとつの方法だと思います。
また、賃借人が健常者でない(障害者)場合には、入居の際に家族
の方や医療機関とよく相談して 賃貸借契約を締結していることが多
いと思いますので、家族や緊急連絡先、保証人、関係福祉機関とよ
く協議相談することです。
また、入居の時点では、健康な人が、事故や病気等で障害者になっ
た場合についても、同様です。
想定されるケースの対応の一例
まず、対象となる借家人が公的な扶助(医療介護、生活扶助)をうけて
いるか、そして、成年後見人が選任されているか等を確認します。
成年後見とは 、判断能力の不十分な者を保護するため、一定の場合
に本人の行為能力を制限するとともに本人のために法律行為をおこな
い、または本人による法律行為を助ける者を選任する制度です。
そして医療介護を受けていれば、担当のケアマネージャーや役所の介
護窓口の担当者(や介護福祉機関)と連絡を取り、今後の居住の場所
等について相談します。
公的な生活扶助を受けていない場合は、役所の担当部署とも調整し、
生活保護の申請をするのも選択肢のひとつです。そして、医療の介護
サービスを受けていなければ、役所の担当部署や介護福祉機関に申
請の相談をします。
(もちろん、身内の人や後見人がいれば相談したうえで、申請の依頼
相談をします)
成年後見人が選任されていれば、引越しの件について相談します。
成年後見人が選任されていなくて、本人に判断能力ない場合は、後見
人の申し立てについて役所の担当部署と相談します。
(4親等内の親族の他に、市区町村長が申立権者であるため本人に
4親等内の親族がいない場合は市区町村長から申し立てしてもらう)
上記のように関係部署や関係人と調整相談しながら、引越しについて
進めていくしかありません。
そして、医療上の理由で全く身体の物理的移動ができない場合について
は事実上立ち退きは不可能でしょう。
執行官も法律に基づいて強制執行をするのですが、人道上問題がある
場合は、執行を不能と判断する場合もあります。
事前に執行官と相談して執行が可能かどうかについても確認する必要
があります。